研修の実効性を高めるために必要な視点

教室や保育現場で大人が子どもに寄り添う様子を象徴する抽象イメージ(現場運用の温かみを表現) 日本版DBS

なぜ「座学だけ」では不十分なのか

こども性暴力防止法に基づき、学校設置者等や認定事業者等には、従事者に対して性暴力等の防止に関する研修を実施する義務が課されています。この研修の目的は、単なる知識の伝達ではなく、従事者一人ひとりがこどもの権利を理解し、性暴力加害の抑止や、疑いが生じた場合の対応方法を理解することで、未然防止・早期発見につなげることにあります。

しかし現場では、「受けたことにする」「年1回の形式的な座学で済ませる」といった形骸化が見られるのが実情です。真に実効性を持たせるためには、研修内容の質と実施方法の両面を見直すことが必要です。本記事では、その中核をなす「加害者要因の理解」と「実践的演習の導入」に焦点を当てます。


研修内容の深化:加害の要因と「認知のゆがみ」の理解

加害の要因を理解することの重要性

こども性暴力防止法第8条に定められた研修内容には、「児童対象性暴力等が生じる要因(認知のゆがみを含む)」が必須項目として明記されています。これは、加害者の心理を知るためではなく、従事者自身が無意識のうちに抱える偏った認識や危険な思考に気づく契機とすることを目的としています。

「認知のゆがみ」とは何か

加害者には、「少し触っただけで大したことではない」「児童も嫌がっていなかった」「児童が自分を好いていた」といった、一方的な思い込みや自己正当化の傾向が見られます。これらは心理学的に「認知のゆがみ」あるいは「思考の誤り」と呼ばれ、性暴力行為を正当化する危険な要因です。

また、児童への支援に熱心な従事者が、「自分はこれだけ尽くしているのだから、少しくらい特別な関係を求めても良い」という誤った思考に至るケースもあります。こうした「思考の転換点」を理解することが、加害の芽を摘む第一歩となります。

研修に盛り込むべきその他の項目

加害要因の理解に加えて、研修には次の内容を包括的に盛り込むことが求められます。

  1. 児童対象性暴力等の防止に関する基礎事項(こどもの権利を含む)
  2. 性暴力や不適切行為の範囲(盗撮等を含む)
  3. 疑いの早期発見と報告のプロセス
  4. 通報・相談・報告を踏まえた対応方法
  5. 被害児童等の保護と支援

これらの項目を単に説明するのではなく、従事者が「自分の行動をどう見直すか」という観点で捉えるよう設計することが重要です。


研修方法の実践化:座学と演習の組み合わせ

実施の基本方針

こども性暴力防止法では、研修を「座学と演習を組み合わせたものとする」ことが推奨されています。知識の習得だけでは、実際の対応力を養うことは困難です。

実践的演習の意義

ワークショップ(事例検討)やロールプレイングを活用することで、受講者は性暴力の疑いが生じた際にどのように行動すべきかをシミュレーションできます。これにより、他者の意見を通じて多角的に考える力が養われ、「自分ごと」として学ぶ姿勢が生まれます。

また、児童から性暴力被害を打ち明けられたときに、冷静かつ適切に対応するには、日頃の訓練が不可欠です。ロールプレイを定期的に行い、即応できる体制を作ることが望まれます。

学習内容に応じた方法の選択

研修内容に応じて、最適な方法を組み合わせることが効果的です。

  • 知識の習得が中心の部分(例:基礎知識)はeラーニングや動画視聴形式。
  • 対応判断や倫理的課題を扱う部分(例:通報対応)は討議・演習形式。

このように内容に応じた手法を選択することで、時間と労力を効率的に活かせます。

視点の醸成と現場での共有

研修では、「自分がどう思うか」ではなく、「児童がどう感じるか」「第三者がどう見るか」という視点を持つことが不可欠です。また、現場でしばしば問題となる「児童との距離感」「信頼関係構築の方法」などについて、従事者同士で悩みを共有し、具体的な線引きを議論する場を設けることも有効です。

組織改善への波及効果

演習で得られた気づきを、施設内ルールや環境整備に反映させることが重要です。
カメラの設置位置や死角の確認、複数職員での対応ルールなど、研修の成果を組織全体の仕組み改善につなげることで、持続的な防止体制を構築できます。


実施体制と外部連携の留意点

継続的な実施

研修は一度きりではなく、定期的に繰り返し行う必要があります。受講は任意ではなく、業務の一環として位置付け、全従事者に受講機会を確保することが求められます。

公平性と専門性の確保

研修の質を担保するためには、外部の専門家や有識者を講師として招くことが有効です。性暴力防止や心理、教育、福祉分野の専門知見を取り入れ、公平性・透明性を確保することが求められます。

多様な従事者への対応

パートタイムやボランティアなど、勤務形態や関与の度合いが異なる従事者にも受講しやすい工夫が必要です。短期従事者には、服務規律資料の確認や動画教材による研修を行うなど、柔軟な対応が求められます。

研修時間の取扱い

研修は事業者の義務であり、その時間は労働時間に含まれます。自己研鑽扱いとすることは適切でなく、業務の一部として正式に位置付ける必要があります。


おわりに

こども性暴力防止法に基づく研修は、単なる法令遵守ではなく、児童を守る組織文化を形成するための基盤です。
加害者要因の理解による内省、演習による実践力の強化、継続的な体制改善。
この三要素を柱とした研修こそが、こどもを守る実効的な防止策となります。


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