なぜ「おそれ」の判断プロセスが法的に必須なのか
児童対象性暴力等防止法(日本版DBS)において、認定事業者等は「おそれがあると認める場合」に防止措置を講じる法的義務を負います(法第20条第1項第4号イ)。
ここでいう「おそれ」とは、児童対象性暴力等が現実に発生した可能性、または将来的に発生する蓋然性を合理的に認められる状態を指します。
「おそれ」の判断は、単なる主観的推測ではなく、客観的事実と合理的根拠に基づくものでなければなりません。
この記事では、事案発生時に求められる判断プロセス(⓪~④)を、法的要請と実務運用の両面から解説します。
服務規律における不適切行為の明確化と周知義務(⓪事前準備)
事業者の責務は、発生後の対応だけではありません。
そもそも判断の前提となる「不適切行為」の範囲を曖昧にしたままでは、公平かつ迅速な調査を行うことは不可能です。
- 求められる準備措置
児童対象性暴力等およびそれにつながり得る「不適切な行為」の範囲を、あらかじめ服務規律や就業規則等で明文化しておく必要があります。
違反行為に対する懲戒処分の対象範囲を明確化し、内部文書に規定しておくことが必須です。 - 周知の範囲と方法
これらの規律は、従業員のみならず児童・保護者にもわかりやすく伝えることが求められます。
認識を共有することで、早期発見・早期相談の機会を広げる効果も期待できます。
端緒の把握と事実確認の実務(①端緒の把握/②事実確認)
「小さな気づき」から真実を見逃さないことが、最初の防波堤です。
- 端緒の把握(初動の原則)
日常観察、面談、相談、保護者からの申告など、どのような経路であっても「性暴力等または不適切行為の疑い」が生じた時点で、迅速に事実確認を開始します。
一見些細な情報でも、無視せず「記録」し、「共有」する仕組みが必要です。 - 暫定的な防止措置
被害申告を受けた場合、調査と並行して一時的な接触回避策を講じます。
被害児童と疑われる従事者が同じ空間にいないよう配置転換等を行うことが望ましいでしょう。 - 公正・中立の原則
事実確認は、児童等の権利と人格を尊重しつつ、従事者の権利にも配慮して行われます。
聴取対象は被害児童等と加害が疑われる従事者の双方であり、必要に応じて保護者からの聴取も実施します。
聴取記録は改ざん防止の観点から、日時・発言内容を正確に記録します。
客観的証拠収集の義務と外部専門家の関与
「言った・言わない」で終わらせないための仕組みが求められています。
- 客観的証拠の意義
双方の主張が対立する場合、第三者による確認や記録の存在が、合理的判断の決め手となります。
収集すべき証拠には、以下のようなものが含まれます。- 第三者(同僚・保護者・目撃者)からの聞き取り
- 防犯カメラ・ドライブレコーダー映像
- SNS・メール・連絡帳等のやり取りの記録
- 専門家との連携義務
児童等への聴取を伴う場合、臨床心理士・公認心理師・弁護士等の専門家と連携し、
記憶の汚染や二次被害を防ぐように進める必要があります。
特に、誘導的な質問を避けることは、調査の信頼性を左右する極めて重要な要素です。 - 関係機関との連携
犯罪の疑いが強い場合や児童虐待が想定される場合は、速やかに警察・児童相談所・自治体等と連携します。
事業者単独で判断・処理しないことが、結果として法的リスク回避にもつながります。
事実評価と「おそれあり」認定(③評価/④認定)
判断の遅れが、二次被害を招く最大のリスクです。
- 評価のタイミング
必要な情報が十分に集まった、またはこれ以上の収集が困難と判断された段階で、
現時点の事実をもとに合理的評価を行います。 - 「合理的に認められる」ための条件
- 本人の自己申告がある場合
- 児童や保護者の申告内容が、客観的証拠や第三者証言と整合する場合
- 客観的証拠そのものが行為の存在を示す場合
- 防止措置の実施と記録義務
認定後は、再発防止策とともに、被害児童への保護・支援措置(法第7条第2項)を講じ、
すべての対応経過を記録として残すことが重要です。
記録は、第三者による検証にも耐え得る透明性を確保する必要があります。
まとめ:形式的な対応ではなく、「リスク管理文化」の構築へ
児童対象性暴力等の防止措置において、「おそれ」の判断は単なる法的義務ではなく、
組織全体の信頼性を左右する危機管理の核心です。
平時から服務規律・記録体制・外部連携を整備し、一人の職員の行為が組織全体の信用を損なうことのないよう、継続的な教育と点検を行うことが求められます。
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