はじめに:犯歴情報は「劇薬」である
※本記事は、令和7年12月22日現在で公表されている「こども性暴力防止法(日本版DBS)」のガイドライン(案)を基に作成しています。将来的な法令・政省令・ガイドラインの確定や改訂により、運用や解釈が変更される可能性があるため、個別事案については最新の公的資料や専門家への確認を前提としてください。
犯罪事実確認記録等は、個人の人格・名誉・職業人生に致命的な影響を与え得る、極めて機微性の高い情報です。
この情報がひとたび漏えいしたり、不適切に扱われたりすれば、
- 無実の従事者の人生を破壊する
- 制度そのものへの信頼を失墜させる
- 施設・法人の事業継続を不可能にする
といった、取り返しのつかない結果を招きます。
だからこそ本制度では、犯罪事実確認記録等を「取扱いを誤れば組織を爆破しかねない劇薬」として扱う位置づけが取られています。
鉄則:利用目的は「性暴力防止」に限定される
原則
取得した犯罪事実確認記録等は、次の目的以外で利用してはなりません。
- 犯罪事実確認(Vetting)
- 防止措置(配置転換等)
これは、こども性暴力防止法第12条・第27条により明確に制限されています。
実務で陥りやすい「NG例」
一見すると「現場の常識」「よかれと思って」の行為であっても、以下はすべて明確な目的外利用に該当します。
- 人事評価や勤務態度の判断材料に使う
- 昇進・昇格の可否判断に流用する
- 他部署の職員と世間話レベルで共有する
性暴力防止と直接関係しない瞬間、その利用は違法行為へと転じます。
「第三者提供」の厳禁と、実務上の落とし穴
原則
法律が認める例外を除き、犯罪事実確認記録等を第三者に提供することは一切禁止されています
(こども性暴力防止法第12条)。
現場で起こりやすい危険な場面
① 保護者からの質問対応
「あの先生には犯歴があるのですか?」
この問いに対し、具体的な事実や有無を回答することは違法となります。
② 派遣元への連絡
派遣労働者の交代を求める場面であっても、
- 犯歴の内容
- 犯罪事実の有無
を派遣元に伝えることは許されていません。
理由説明が必要な場合でも、犯歴情報そのものを出してはいけないという点が、実務上の最大の原則であり落とし穴です。
法律が認める「例外的な提供」の範囲
犯罪事実確認記録等の提供・提示が認められるのは、次の限定的なケースに限られます。
法令に基づく共有
- 都道府県教育委員会と市町村教育委員会間
- 共同認定事業者間での必要最小限の共有
公的手続への対応
- 裁判所の手続
- 警察の捜査協力
- 行政機関による立入検査 等
これ以外は、原則すべて不可です。
課される「重い罰則」と両罰規定
違反した場合、処罰対象となるのは個人だけではありません。
主な罰則
- 情報不正目的提供罪
不正な利益を図る目的で提供した場合
→ 2年以下の拘禁刑 又は 100万円以下の罰金 - 情報漏示等罪
業務で知り得た情報を、みだりに他人に知らせたり利用した場合
→ 1年以下の拘禁刑 又は 50万円以下の罰金
両罰規定
従業員が違反した場合、事業主(法人)にも同様の罰金刑が科されます
(こども性暴力防止法第48条)。
「担当者が勝手にやった」という説明は、通用しません。
事業者が取るべき「身を守るための管理」
① 取扱者の最小限化
- 情報に触れられる人間を、組織内で極限まで絞り込む
② 記録・保存の回避
- システム上の閲覧に留める
- 転記・コピー・紙出力を極力行わない
③ 情報管理規程の策定
- 誰が
- いつ
- どの端末で
情報を扱うのかを、明文化し周知することが不可欠です。
まとめ:この情報は「金庫の外」に出した瞬間、爆弾になる
犯罪事実確認記録等の取扱いは、銀行における「暗証番号」や「貸金庫の鍵」に極めて近いものにあたると考えます。
いくら銀行員が
「良かれと思って」「安全のために」
と考えたとしても、
- 権限のない同僚に教える
- 顧客の格付け(評価)に流用する
ことは決して許されません。元銀行員として、経験に基づいて申し上げます。
つまり、この情報を「性暴力防止」という専用の金庫から一歩でも外に持ち出した瞬間、その手元にある情報は、組織を根底から破壊する「法的な時限爆弾」へと変わります。
外部専門家(行政書士等)への依頼はどこまで可能か
弊所にも「犯歴の確認申請の代理をお願いしたいのですが」というご相談も実際に増えてきましたが、行政書士等の外部専門家は、
- 申請書類の作成支援
- 体制構築・規程整備の助言
において重要な役割を果たせる反面、現状ではオンラインシステム上の申請行為そのものを丸ごと代行することは困難な設計となっています。
1.「認定」申請(民間事業者)
- 申請主体:認定を受けようとする事業者本人
- 認証方法:事業者の GビズID(プライム又はメンバー)
- 専門家の関与:
- 規程作成
- 内容整理
- 事前準備の支援
は可能
- ただし、最終的な申請操作は事業者自身が行う設計
2.犯罪事実確認(Vetting)の交付申請
- 申請主体:法に基づく「対象事業者」に限定
- 認証要件:
- 事業者担当者の
利用者証明用電子証明書が必要
- 事業者担当者の
- 代行が明示的に認められているのは、公的機関同士の連携に限られており、外部専門家による代行規定は存在しません。
3.従事者本人の書類提出
- 従事者 → 事業者経由での提出は可能
- ただし、
行政書士等の外部専門家を経由できる規定は存在しません
4.外部専門家活用時の注意点
- 犯罪事実確認記録等は、目的外利用・第三者提供が厳禁
- 外部専門家にどこまで情報を見せるかは、
情報管理規程で厳格に定める必要があります
おわりに:事業者による適法な「自力手続」を前提とした支援
こども性暴力防止法に基づく各種手続は、制度設計上、事業者自身が主体となって行うことを前提としています。
犯罪事実確認(Vetting)や関連する申請手続は、GビズIDや電子証明書による本人認証を前提としたシステム構成となっており、第三者が申請行為そのものを代行することは想定されていません。
したがって、外部専門家の関与は、
- 必要書類・規程類の作成支援
- 手続全体の整理と事前準備
- 情報管理・運用体制の設計支援
といった、事業者による自力手続を円滑に行うための補助的役割に限定されると思われます。
本コラムで整理したとおり、犯罪事実確認記録等は、目的外利用・第三者提供が厳しく制限されており、取扱いを誤れば刑事罰の対象となる情報です。
そのため実務において重要なのは、「誰かに任せること」ではなく、
事業者自身が、どの手続を、どの立場で、どこまで行うのかを正確に理解した上で運用することです。
本制度の下では、事業者が自らのID・電子証明書を用いて手続を完結させることを前提に、必要な準備や判断を事前に整えておくことが、最も確実でリスクの少ない対応となります。
弊所は、施行前の準備段階から、事業者がこれらの手続を滞りなく、自力で進められる状態となるよう、制度整理・書類作成・運用設計の各面から支援を行います。
日本版DBSの対応、「うちの場合はどうなる?」と感じたら
日本版DBS(こども性暴力防止法)は、施設の種別・運営形態・職員体制によって、必要な対応が異なります。
保育園・認定こども園・障害福祉施設といった義務対象施設ははもちろん、スポーツクラブ、学習塾などの認定対象事業所でも、「どこまで準備すればよいのか分からない」という声を多く伺います。
- 就業規則やマニュアルは、このままで足りるのか
- 研修や演習は、どこまで求められるのか
- 自園・自施設の運営形態で、注意すべき点はどこか
施設ごとの状況に応じた整理が必要な段階です。

