※この記事は、こども家庭庁「教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組 を横断的に促進するための指針」を元に執筆しています。
1.はじめに:教育・保育現場が持つ「二面性」
教育・保育の現場は、こどもの成長を支え、安心して過ごせる「守られた場所」であるべき空間です。
一方で、この現場には他の職場とは異なる、特有の性質が存在します。
それが、「支配性」「継続性」「閉鎖性」という三つの特質です。
👑 支配性
- 「先生」という絶対的な上下関係。逆らえない構造。
⏳ 継続性
- 積み重なる信頼と時間。グルーミングの温床。
カラム3:🚪 閉鎖性
- 保護者の目が届かない密室。死角の発生。
これらは本来、良質な指導やケアを行うために不可欠な要素ですが、捉え方や運用を誤ると、性暴力が発生しやすい環境へと転じてしまう**「リスクの源泉」**にもなり得ます。
性暴力防止を考える上では、この二面性から目を背けず、現場の特質そのものを正しく理解することが不可欠です。
2.「支配性」:指導という名の絶対的な上下関係
教育・保育の現場では、従事者は児童を指導し、評価する立場にあります。
この関係性は、構造上、従事者が児童に対して支配的・優越的な立場に立ちやすいものです。
児童にとって「先生」や「指導員」は、強い影響力を持つ存在であり、その言動に逆らうことは容易ではありません。
もしこの立場が濫用された場合、児童は拒絶や抵抗をすることが極めて困難になります。
さらに、加害者側はこの力の差を利用し、
- 指導の一環である
- 特別に目をかけているだけ
- これは教育的行為だ
といった形で、自身の行為を正当化する**思考の誤り(認知のゆがみ)**に陥りやすくなります。

これはあの子のためなんだ……特別な指導なんだ……あの子も喜んでいるはずだ……
3.「継続性」:深まる信頼と「性的グルーミング」の土壌
教育・保育は、短期間で完結する関係ではありません。
長期間にわたり、同じ児童と日常的に関わる中で、従事者と児童の間には継続的で密接な人間関係が築かれます。
この信頼関係は本来、こどもの成長にとって重要なものですが、同時に、
「性的グルーミング(性的手なずけ)」
の土壌にもなり得ます。
⚠️ 性的グルーミング(手なずけ)の典型的なプロセス
- 信頼獲得: 「悩みがあるなら聞くよ」と親身に寄り添う。
- 特別扱い: 「君だけ特別だよ」と二人だけの秘密を作る。
- 性の要求: 信頼や秘密を人質にして、性的な行為を迫る。
- 口止め: 「言ったら君も困るよ」「裏切りだ」と脅す。
4.「閉鎖性」:監視の届かない「死角」の発生
教育・保育施設では、保護者の目が届かない状況で児童を預かります。
この構造自体が、物理的・心理的な閉鎖性を生みやすい要因となります。
空き教室、更衣室、送迎車内など、日常の中に存在する場所は、
一時的にでも**「死角」**となり得ます。
さらに、
- 「まさかあの人が」
- 「ここでそんなことが起こるはずがない」
といった周囲の思い込みが、この閉鎖性と結びつくことで、
問題の発見を遅らせてしまうことも少なくありません。
5.組織として取り組む「特質のコントロール」
これら三つの特質そのものを、完全になくすことはできません。
しかし、事業者には、そのリスクを認識し、コントロールする責務があります。
🔨 環境・ハード対策
(閉鎖性を消す)
- 防犯カメラの設置
- 教室の窓ガラス化(可視化)
- ドアを開放する習慣
📝 ルール・ソフト対策
(支配性を断つ)
- 1対1の密室指導を禁止
- 複数担任制・ローテーション
- 私的なSNS連絡の禁止
重要なのは、個人の善意や経験に委ねるのではなく、
組織として仕組み化することです。
6.結びに:「性暴力は生じ得る」という前提に立つ
性暴力は、「信頼」を裏切る行為であり、児童の人生に深刻かつ長期的な影響を及ぼす重大な人権侵害です。
だからこそ、
「この現場では起こらない」ではなく、「起こり得る」
という前提に立つことが必要です。
現場に関わるすべての人がこの意識を共有し、風通しの良い環境を作ること。
そして、一人で抱え込まず、チームによる対応で透明性を確保すること。
それこそが、
教育・保育現場が持つ三つの特質を、
「加害の武器」にさせないための唯一の道と言えるでしょう。
- Q1対1の個別指導が必要な場合(補習など)はどうすればいいですか?
- A
「密室」を作らない工夫が不可欠です。ドアを開け放しておく、外から見えるガラス張りの部屋を使用する、あるいは防犯カメラを設置して記録を残すなど、第三者の目(監視性)を確保するルールを設けてください。
- Q信頼関係を築くためのスキンシップまで禁止されるのですか?
- A
信頼関係は重要ですが、身体接触に頼る必要はありません。特に「他の子に見えない場所」での接触や、「特定の児童だけ」への過度な接触は、グルーミングの予兆と誤解されるリスクがあるため、組織として明確なガイドラインを設けるべきです。
- Q支配性」と言われますが、指導には厳しさも必要ではないですか?
- A
指導と支配は異なります。こどもが恐怖で萎縮し、意見を言えなくなる状態は「支配」です。日本版DBSが求めるのは、こどもが安心して「No」と言える環境(心理的安全性)が確保された上での、適切な教育・保育です。
日本版DBSの対応、「うちの場合はどうなる?」と感じたら
日本版DBS(こども性暴力防止法)は、施設の種別・運営形態・職員体制によって、必要な対応が異なります。
保育園・認定こども園・障害福祉施設といった義務対象施設ははもちろん、スポーツクラブ、学習塾などの認定対象事業所でも、「どこまで準備すればよいのか分からない」という声を多く伺います。
- 就業規則やマニュアルは、このままで足りるのか
- 研修や演習は、どこまで求められるのか
- 自園・自施設の運営形態で、注意すべき点はどこか
施設ごとの状況に応じた整理が必要な段階です。

