――罰金では終わらない、許認可を直撃する制度設計――
こども性暴力防止法(いわゆる日本版DBS)は、単なる新たな義務を課す法律ではありません。
こども性暴力防止法(以下、本法)の最大の特徴は、違反があった場合、その事業の根拠となる「業法」そのものに波及し、許認可の維持が困難になるよう制度設計されている点にあります。
本記事では、義務対象事業者(学校設置者等)と認定を受けた事業者が本法に違反した場合に生じる具体的な影響と監督のプロセス、さらに事業者が「違反」とみなされる主な行為を整理して解説します。
※本記事は、令和7年12月22日現在で公表されている「こども性暴力防止法(日本版DBS)」のガイドライン(案)を基に作成しています。将来的な法令・政省令・ガイドラインの確定や改訂により、運用や解釈が変更される可能性があるため、個別事案については最新の公的資料や専門家への確認を前提としてください。
業法に基づく強力な行政処分|本法遵守は「適正な運営」の前提条件
本法の施行に伴い、学校教育法、児童福祉法、認定こども園法などの業法が改正されます。これにより、本法の遵守が「適正な運営」の条件となり、違反は直接的な行政処分の対象となります。
認可の取消し・事業停止
- 児童福祉施設(保育所、児童養護施設など)
本法やそれに基づく命令に違反した場合、都道府県知事等は設置の認可を取り消すことができます。また、運営を継続させることが児童福祉に著しく有害であると認められるときは、事業の停止を命じることも可能です。 - 指定障害児通所支援事業者
違反があった場合、指定の取消しや、期間を定めた指定の効力の停止(新規受け入れ停止など)の対象となります。 - 認定こども園
設置者が本法に違反し、園児の教育・保育上有害なときは、認可・認定の取消し、あるいは事業停止・施設閉鎖が命じられます。
改善勧告と改善命令
許認可の取消しに至る前段階として、所轄庁(都道府県や市区町村)は、違反を是正するために必要な改善を勧告し、それに従わない場合は改善命令を出すことができます。
犯罪事実確認システムからの排除
本法そのものに基づく制裁として、最も実務的な打撃となるのが、犯罪事実確認システムの利用停止です。
是正命令と犯罪事実確認書の交付停止
情報管理措置に違反し、漏えい事態が生じた場合などには、こども家庭庁から是正命令が出されます。この是正が完了したと認められるまでの間、こども家庭庁は犯罪事実確認書の交付を行いません。
雇用の実質的な停止
義務対象事業者は、対象業務に従事させる者について犯罪事実確認を行う義務があります。そのため、確認書の交付が停止されると、新たなスタッフを雇って業務に就かせることが法律上不可能になります。
社会的信用の喪失(公表措置)
本法では、金銭的な罰則だけでなくインターネットを通じた情報の公表が義務付けられています。
違反事実の公表
犯罪事実確認の義務に違反した場合(必要な確認を行わずに従事させた等)、事業者名、施設名、違反の内容、および対象人数が公表されます。
認定取消しの公表
認定事業者が違反した場合は認定が取り消され、その事実も公表されます。
こども家庭庁と所轄庁による二重の監視
民間法人(私立学校や社会福祉法人など)の場合、こども家庭庁と所轄庁(自治体など)の二つの機関から監督を受けることになります。
役割分担
- こども家庭庁:犯罪事実確認の実施状況および情報管理措置の監督
- 所轄庁(自治体等):業法に基づく運営全体の監督(安全確保措置を含む)
情報の相互共有
両機関は立入検査の結果や命令、処分の情報を相互に共有しており、重大な違反については国と自治体が協力して強力な監督を行います。
事業者が「違反」とみなされる主な行為【カテゴリ別】
犯罪事実確認義務に関する違反
- 新規採用時、業務開始前に犯罪事実確認を行わなかった場合
- 施行時現職者について、施行から3年以内(認定事業者は認定から1年以内)に確認を完了させなかった場合
- 5年ごとの再確認を、定められた年度末までに行わなかった場合
- 「いとま特例」を用いた際、確認完了までの間に一対一回避などの防止措置を講じなかった場合
情報管理措置に関する違反
- 犯罪事実確認記録の目的外利用・第三者提供
- 離職後や保持期限経過後、30日以内に廃棄・消去しなかった場合
- 漏えい等の重大事態を直ちにこども家庭庁へ報告しなかった場合
安全確保措置・認定基準に関する違反
- 是正命令・適合命令に従わなかった場合
- 虚偽の報告、立入検査の拒否・妨害
- 帳簿の未整備または虚偽記載
表示(認定マーク)に関する違反
- 認定を受けていないにもかかわらず、認定事業者マーク等を表示した場合
- 認定取消し後もマークを撤去・回収しなかった場合
まとめ|日本版DBS違反は「事業を止める」制度である
この制度は、単に罰金を科すためのものではありません。
許認可の取消し、Vettingシステムの停止、違反事実の公表という三層構造により、事業の継続そのものを左右する仕組みとなっています。
こども性暴力防止法における「違反」とは、制度が前提とする安全確保の連鎖を断ち切る行為であることを、事業者は正しく理解する必要があります。
制度が複雑で分かりにくい部分も多く、「よく分からないまま様子を見る」ことが結果的にリスクを高めてしまう場合があります。少しでも判断に迷う点があれば、行政書士など制度に詳しい専門家に早めに相談し、自施設に合った対応を確認することをおすすめします。
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日本版DBSの対応、「うちの場合はどうなる?」と感じたら
日本版DBS(こども性暴力防止法)は、施設の種別・運営形態・職員体制によって、必要な対応が異なります。
保育園・認定こども園・障害福祉施設といった義務対象施設ははもちろん、スポーツクラブ、学習塾などの認定対象事業所でも、「どこまで準備すればよいのか分からない」という声を多く伺います。
- 就業規則やマニュアルは、このままで足りるのか
- 研修や演習は、どこまで求められるのか
- 自園・自施設の運営形態で、注意すべき点はどこか
施設ごとの状況に応じた整理が必要な段階です。

