※この記事は、こども家庭庁「教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組 を横断的に促進するための指針」を元に執筆しています。
1.はじめに:法定義務と横断指針の位置づけ
令和6年6月に成立した「こども性暴力防止法」により、一定の事業者には、こどもに対する性暴力を防止するための法的義務が課されました。
この法律は、教育・保育など、特定の事業分野を主な対象として制度設計されています。
一方で、本稿で取り上げる横断指針は、法律の対象となる事業者に限らず、法対象外の事業者も含めた幅広い活用を想定して策定されています。
児童対象性暴力が深刻な人権侵害である以上、事業形態や規模を問わず、すべての現場において防止と支援の取組が重要であるという考え方が、その前提にあります。
⚖️ こども性暴力防止法
- 学校、認可保育所、認定こども園など
- 「法的義務」(やらないと違法)
- 制度による厳格な排除
📖 横断指針(今回のテーマ)
- 学習塾、スポーツ教室、個人の習い事など
- 「自主的取組」(推奨される基準)
- 社会全体でのセーフティネット構築
2.「対象外」であっても無関係ではない現実
法律上の義務が課されていない事業者であっても、性暴力への対応が不適切であった場合、その影響は決して小さくありません。
使用者責任を問われる法的リスクや、訴訟・紛争への発展、さらには社会的信用の失墜は、小規模な事業者や習い事教室であっても例外ではありません。
「法的義務がないから大丈夫」という認識は、結果として経営上の重大なリスクを招く可能性があります。
性暴力は特定の場所や業種だけで発生するものではありません。
「どこでも起こり得る」という前提に立つことが、組織を守る第一歩となります。
3.幅広い活用が想定される具体的な現場
横断指針では、学校や保育所等に限らず、さまざまな事業形態が想定されています。具体例として次のようなものがあります。
加えて、施設そのものではなく、送迎業務などを担う外部委託先に対しても、本指針に沿った取組を促すことは、実務上有効な対応といえます。
4.業界横断で整理されていることの意義
現在、業界ごとに一定のガイドラインが存在する分野もありますが、業界を横断して整理された情報は必ずしも十分とはいえません。
横断指針は、既存のガイドラインを参照・活用しつつ、共通して有用な考え方や対応をまとめたものです。
特に、小規模事業者にとっては、専門的な人材や体制を単独で整えることが難しい場合もあります。
そのような場合に、業界団体や関係者と連携しながら横断指針を活用することで、不足しがちな体制を補完することが可能になります。
5.自律的な取組が「信頼」を生む
この横断指針は、法律に基づき新たな義務を課すものではありません。
あくまで、各現場における自律的な取組を後押しするための指針です。
すべてを一度に実施することが求められているわけではなく、事業形態や規模に応じて、実施可能なものから段階的に取り組むことが想定されています。
性暴力防止に対する姿勢を明確に示すことは、保護者やこどもに安心感を与えるだけでなく、事業の健全性や信頼性を外部に示すことにもつながります。
6.結びに:こどもの安全を社会全体のスタンダードへ
どのような事業であっても、最優先されるべき視点は**「被害児童ファースト」**です。
この考え方は、法対象か否かにかかわらず、すべての現場に共通するものです。
横断指針を「共通の物差し」として活用することで、業種や規模の垣根を越え、社会全体でこどもを守る網の目をより細かくしていくことが求められています。
- Q個人でピアノ教室をやっていますが、人を雇っていなくても関係ありますか?
- A
はい、関係します。たとえ一人親方であっても、こどもと密室になる環境であれば、保護者からの不安は尽きません。「当教室は国の指針に基づいた安全対策(死角の解消など)を行っています」と公表することが、選ばれる教室になるための信頼の証となります。
- Q指針の内容をすべて実施するのは、コスト的に厳しいのですが……。
- A
横断指針は、すべてを一律に強制するものではありません。まずは「死角を作らないレイアウトにする」「SNSでの私的連絡を禁止する」など、コストのかからないルール作りから始めてください。できることから段階的に取り組むことが重要です。
- Q認定制度(適合認定)を受けられない事業者でも、指針を使うメリットはありますか
- A
大きなメリットがあります。万が一トラブルになった際、「業界標準の指針に沿って対策していた」という事実は、事業者が安全配慮義務を果たしていたことを示す重要な証拠(防衛材料)になり得ます。
日本版DBSの対応、「うちの場合はどうなる?」と感じたら
日本版DBS(こども性暴力防止法)は、施設の種別・運営形態・職員体制によって、必要な対応が異なります。
保育園・認定こども園・障害福祉施設といった義務対象施設ははもちろん、スポーツクラブ、学習塾などの認定対象事業所でも、「どこまで準備すればよいのか分からない」という声を多く伺います。
- 就業規則やマニュアルは、このままで足りるのか
- 研修や演習は、どこまで求められるのか
- 自園・自施設の運営形態で、注意すべき点はどこか
施設ごとの状況に応じた整理が必要な段階です。

