※この記事はこども家庭庁が公表しているこども性暴力防止法施行ガイドラインを元に作成しています。
あわせてこども性暴力防止法の概要も合わせてご確認ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案については、必ず専門家へご相談のうえご判断ください。
はじめに
日本版DBS(こども性暴力防止法)についてお伝えする際、
私が何より大切にしたいのは、
日々、一人で現場に立ち、
真面目に、誠実にこどもと向き合っている教育・保育の担い手が、
制度によって不当に疑われたり、萎縮したりしないことです。

誰かを責めるための話ではありません。 真面目な先生たちが、不当に疑われないために。 なぜ制度が『構造』を見るのか、整理してみましょう。
1.ある「施術」をめぐる刑事事件
📁 ケーススタディ:施術現場での逮捕事例
- 状況: リラクゼーションサロンの密室での施術
- 行為: 施術名目での性的部位への接触
- 容疑: 不同意わいせつ
- 捜査の判断: 「専門家という立場」や「密室環境」を利用し、被害者が抵抗できない(NOと言えない)状況に乗じた犯行であり、「自由な意思に基づく同意」は存在しないと判断された、と推察しています。報道によると容疑は認めているものの「わいせつ目的ではなく施術の一環だった」という供述です。
2.問題は「行為」ではなく「構造」
この事案を日本版DBSの観点で整理すると、
問題となるのは行為の名称や、本人の意図ではありません。
DBSが重視するのは、
**性加害が起きやすい関係性や環境――すなわち「構造」**です。
その構造を読み解くための軸として、
日本版DBSでは
〈支配性・閉鎖性・継続性〉
という視点が用いられています。
3.施術という名目が生む〈支配性〉
施術者・ケア提供者という立場には、
- 専門的知識を有しているように見える
- 身体を委ねる前提で関係が始まる
- 「必要な行為だ」と説明できる優位性
があります。
この事案でも、施術を受ける側は
「専門的な理由があるのだろう」と受け止め、
その場で疑問や拒否を示しにくい状況に置かれていたと思われます。
日本版DBSでは、このような関係性そのものを
〈支配性〉を伴う構造として捉えます。
4.密室性がもたらす〈閉鎖性〉
身体に直接関わる行為は、構造上、1対1・密室になりやすいという特徴があります。
第三者の目が届かない環境では、
- 行為の妥当性をその場で確認できない
- 「今さら断れない」という心理が働く
- 外部から是正が入りにくい
といった状況が生まれます。
日本版DBSでは、この閉鎖性そのものがリスク要因とされています。
5.経営者=施術者が生む〈継続性〉
この事案では、経営者自身が施術者として現場に立っていました。
その結果、
- 行為の内容を決めるのも本人
- 説明の仕方を決めるのも本人
- 判断を修正・制止する第三者がいない
という状態が生まれます。
これは、同じ関係性・同じ判断が繰り返されやすい(=継続性が高い)構造です。
日本版DBSが重視するのは、「一度起きたかどうか」ではなく、再現できてしまう環境かどうかです。
6.「認定」がなくても「信頼」は作れる
ここで、個人経営の学習塾や教室の皆様に、
ぜひ強くお伝えしたいことがあります。
制度上、従事者数などの要件により
国の「認定」を受けられない場合があるからといって、
それは決して「安全ではない教室」を意味するものではありません。
日本版DBSの認定制度は、
あくまで行政が一定の体制を持つ事業者を
制度上整理するための枠組みです。
国の認定マークに頼れない立場であっても、
「私たちは、自らの意思で高い安全基準を設けています」
という姿勢を、自分の言葉で示すことができます。
これは、大手事業者には真似のできない、
**個人教室ならではの、非常に強い信頼(ブランド)**になり得ます。
例えば、個人塾・個人教室では、
次のような自主的な安全宣言を通じて、
保護者からの支持を得ることが可能となってきます。
【個人教室の生存戦略:3つの安全宣言】
①「見せる」覚悟(透明性の確保)
「一人密室」のリスクを自覚しているからこそ、
- 教室のドアを常に開放する
- 防犯カメラを設置・作動させる
- 保護者が見学できる環境を整える
など、
**「いつ、誰に見られても恥ずかしくない環境」**を
自ら作り、あえて公開します。
これは、閉鎖性を弱める、非常に有効な方法です。
②「繋がらない」ルール(私的交流の遮断)
- 生徒と個人のSNS・LINEは交換しない
- 連絡は必ず保護者経由で行う
といったルールを明文化し、入会時にきちんと説明する。
これにより、
**なあなあの関係が継続してしまうリスク(継続性)**を
意図的に断ち切ることができます。
③「学ぶ」姿勢(ガイドラインへの準拠)
たとえ認定は受けられなくても、
「こども性暴力防止法のガイドラインに準拠した運営を行っています」
と掲げることは可能です。
制度を「外から押し付けられるもの」ではなく、
自ら選び、取り入れている姿勢そのものが、
信頼につながります。
7.「構造」を補うのは「意思」である
日本版DBSが指摘する
**構造上のリスク(支配性・閉鎖性・継続性)**は、
確かに、一人運営の現場に発生しやすい側面があります。
しかし、それは
「個人運営だから避けられない」という意味ではありません。
これらのリスクは、
事業者自身の強い意思と、具体的な工夫によって、
十分にコントロールすることが可能です。
- 「私は一人だから、あえてドアを開けます」
- 「私は一人だから、あえて厳しいルールを課します」
このように、自らの構造的な弱点を理解し、
それを補う行動を取っている先生こそが、
真の意味でプロフェッショナルな教育者だと言えるでしょう。
制度が定める「3人以上」という枠組みは、
あくまで行政上の線引きに過ぎません。
目の前の保護者が求めているのは、
国のマークではなく、
「この先生なら、安心して子どもを預けられる」
という、顔の見える信頼関係そのものです。
おわりに:誇りある「個人の現場」を守るために
日本版DBSという大きな制度の流れの中で、
「個人塾は排除されるのではないか」と
不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この制度の本質を正しく理解し、活用すれば、
それはむしろ、
「真面目に取り組んできた個人塾を守るための武器」
にもなります。
「うちは小さいけれど、安全対策は大手以上に徹底している」
そう胸を張って言える環境を作ること。
それが、不当な疑いやトラブルから個人経営の皆様を守り、
地域で長く愛される教室として存続するための、
確かな道です。
一人で現場に立つ皆様の誠実さが、正しい形の「安全対策」として
きちんと保護者に伝わることを、心から願っています。


