日本版DBS(こども性暴力防止法)の施行が迫る中、インターネット上には制度を解説するコラムや、コンサルタントによる「〇〇までに準備しないと間に合わない!」と急かすようなセミナー動画が溢れています。 しかし、専門の国家資格を持たない無資格者や、法律・ガイドラインの正確な読み込みが不足している発信者による情報の中には、事業者の法違反や実務の大混乱に直結しかねない「重大な事実誤認」が混ざっているケースが散見されます。
ネットの情報を鵜呑みにして「誤ったルール」で実務を進めてしまうと、施設側が予期せぬ罰則や認定取消し、最悪の場合は加害者の見逃しという致命的な事態を招くおそれがあります。本コラムでは、こども性暴力防止法(日本版DBS)専門の行政書士の視点から、ネット上の記事や動画で実際に発信されている「よくある6つの重大な間違い」と、それが引き起こすリスクについて解説します。
誤解1:「罰金刑」の性犯罪歴を見逃す致命的な間違い
よくある誤った解説:
「確認の対象となる前科は、拘禁刑(実刑)と執行猶予付き判決の場合です」
- 【正解】罰金刑も対象です: 国のガイドラインによると、特定性犯罪について「罰金刑の執行終了等から10年を経過しないもの」も確認対象に含まれます(法第2条第8項第3号)。
- ⚠️ 引き起こされるリスク: 罰金刑となった加害者を見逃し、こどもと接する現場に配置してしまう事態に直結します。対象かどうか不明な場合は、個別に専門家(弁護士)へご相談下さい。
誤解2:「私立は対象外?」対象範囲の誤認
よくある誤った解説:
「法定事業者(義務対象)となるのは、認可保育所・認定こども園・公立幼稚園などです」
- 【正解】私立幼稚園も「義務対象」です: 法律上、学校教育法に基づく幼稚園は、公立・私立を問わず全てが「義務対象事業者」となります(法第2条第3項第1号イ)。よって、私立の学校(中高一貫校など)も同様に義務対象です。
私の元にも、「私立だから」「認可保育所だから」認定対象ですよね?というご質問も多く頂きますが、これらは全て義務対象となります。 - ⚠️ 引き起こされるリスク: 私立幼稚園が「うちは任意の認定制度でよい」と勘違いし、義務違反による行政指導や事業者名公表を受けるおそれがあります。
誤解3:現職者の犯罪事実確認「完了期限」の混同
よくある誤った解説:
「現職者は、施行日から3年以内に全員の確認を完了させなければなりません」
- 【正解】認定事業者は「認定から1年以内」です: 義務対象事業者は施行日から3年以内ですが、学習塾や認可外保育施設等の「認定対象事業者」の現職者は、認定の日から1年以内です。
- ⚠️ 引き起こされるリスク: 認定事業者が「うちも3年間の猶予がある」と誤認して期限を徒過し、認定取消し等の処分を受けるリスクがあります。また、義務対象事業者の現職者についても「3年間まるまる猶予がある」わけではありません。正しくは、令和9年4月から2年3か月(27か月間)で計画的に分散申請を行い、残りの約半年間は手続の遅れ等のイレギュラーに備えた「バッファ期間」として確保するよう国から求められています。
誤解4:存在しない「架空の規程」に振り回される実務の混乱
よくある誤った解説:
「情報漏えいを防ぐため、『(架空の名称)規程』を新たに策定することが求められます」
- 【正解】正式名称は「情報管理規程」です: 事業者が情報漏洩を防ぐ目的で策定を求められている規程の正式名称は「情報管理規程」です。また、義務対象事業所に対して「児童性暴力等対処規程」の策定を求める記事も散見されますが、「児童性暴力等対処規程」が必須なのは認定対象事業所です。
※義務対象事業所には、法6条と7条に定められた内容に従った内部規律の策定が求められます。 - ⚠️ 引き起こされるリスク: 法令に存在しない独自の規程名を案内されることで、現場が「別の規程も作らなければならないのか」と混乱し、無駄な労力を強いることになります。
誤解5:全事業者が「12月25日までに」全職員の研修を終えるという煽り
よくある誤った解説:
「現職者の研修は、12月25日の施行前までに全職員が座学と演習の両方を終えていなければ間に合いません」
- 【正解】認定事業者は「認定申請時まで」です: ガイドラインにおいて、施行日前の受講が求められるのは「義務対象事業者」の現職者です。認可外保育施設などの「認定事業者」の現職者は、事業者が「認定の申請を行う時まで」に受講させれば足ります(法第20条第1項第5号)。
- ⚠️ 引き起こされるリスク(無用な現場の疲弊): 事業者の区分(義務か認定か)を無視して「一律に12月25日までに全員受講」と煽る情報に踊らされると、認定事業者が必要以上にシフトを圧迫し、保育や教育の現場を無用に疲弊させてしまいます。
誤解6:「研修の実施状況を毎年国に報告する義務がある」という誤認
よくある誤った解説:
「研修などの実施状況は、年に1回国(こども家庭庁)に報告する義務があるため、記録簿が絶対に必要です」
- 【正解】義務対象事業者は「国」への研修の定期報告義務はありません: 年に1回こども家庭庁に「安全確保措置(研修等)」の実施状況を定期報告する義務があるのは「認定事業者」のみです。義務対象事業者がこども家庭庁に報告するのは「犯罪事実確認・情報管理措置」に関する事項であり、研修状況等は「(教育委員会や都道府県など)所轄庁の求めに応じて」報告する仕組みです。
( 法第15条第2項(義務対象の定期報告)、法第28条第2項(認定対象の定期報告)) - ⚠️ 引き起こされるリスク(コンプライアンス管理の混乱): 監査に備えて研修記録を残すこと自体は重要ですが、法令上の報告先(こども家庭庁か所轄庁か)や報告ルールを混同して理解することは、誤った行政手続に繋がり、かえって所轄庁からの不信感を招きかねません。
■ おわりに:正確な法律知識に基づいた準備を
こども性暴力防止法は、こどもたちの安全を守ると同時に、違反した事業者に対する厳しい罰則や公表リスクを伴う厳格な法律です。
「動画サイトで分かりやすく解説していた」「検索上位の記事だから」という理由だけで、その情報を信用するのは大変危険です。就業規則の改定、情報管理体制の構築、研修の実施にあたっては、制度の正確な知識を持つ弁護士・行政書士に相談し、自園・自校の区分(義務対象か認定対象か)に合わせた、確実な法令遵守(コンプライアンス)体制を整えることを強くお勧めいたします。
- Q日本版DBSの確認対象となる前科に「罰金刑」は含まれますか?
- A
はい、罰金刑も対象です。国のガイドラインでは、特定性犯罪について「罰金刑の執行終了等から10年を経過しないもの」も確認対象に含まれます。罰金刑を除外して運用すると、盗撮や痴漢等の加害者を見逃すリスクが生じます。
- Q私立幼稚園は日本版DBS(こども性暴力防止法)の義務対象外ですか?
- A
いいえ、私立幼稚園も義務対象です。法律上、学校教育法に基づく幼稚園は公立・私立を問わず全てが「義務対象事業者」となります。任意の認定制度と誤認すると、行政指導や事業者名公表を受けるおそれがあります。
- Q現職者の犯罪事実確認は、どの事業者も施行日から3年以内に完了すればよいですか?
- A
いいえ、事業者区分によって異なります。義務対象事業者は施行日から3年以内に国から分散申請手続きを求められますが、学習塾や認可外保育施設等の「認定対象事業者」の現職者は「認定の日から1年以内」です。義務対象、認定対象いずれの事業形態においても「3年以内」は誤った情報です。
- Q全事業者が研修の実施状況を毎年国(こども家庭庁)に報告する義務がありますか?
- A
いいえ、国への研修定期報告義務があるのは「認定事業者」のみです。義務対象事業者がこども家庭庁に報告するのは犯罪事実確認・情報管理措置に関する事項であり、研修状況等は(都道府県や教育委員会等)所轄庁の求めに応じて報告する仕組みです。

